本質は「無意識化」 受験合格への道③ 量をこなす戦略

受験は、人生における大きな挑戦の一つです。限られた時間の中で、最大限の成果を出すためには、戦略的なアプローチが不可欠です。

そこで、受験合格に必要な要素を

「勉強をはじめる」
「質を担保する」
「量をこなす」
「期限に間に合わせる」
の4つに分類し、それぞれについて解説していきたいと思います。

第三回である今回は、「量をこなす」についてお話しましょう。

 

■どうして量をこなす必要があるのか

量をこなすことで得られるもの……

その本質は無意識化(自動化)です。

 

人が同時に意識できることには限りがあります。

その数を4つとする説もあれば、5~9つとする説もありますが、いずれにせよ人が一度に処理できる情報には限界があります。

 

暗算をイメージしてみてください。

一桁×一桁(7×8など)の計算は皆さんすぐできますね。

二桁×一桁(35×9など)も苦手な方でなければ大丈夫でしょう。

二桁×二桁(24×47など)になってくるとできない人が増えてきます。

三桁×二桁(354×41など)が暗算できる人はなかなかいません。

 

桁の大きい暗算がなぜ難しいのかといえば、計算を進めていくうちに最初に計算した数字を忘れてしまうからです。

354×41の例では、下記のような手順で計算することができます。

 

4×1=① → 4×40=② → 50×1=③ → 50×40=④ → 300×1=⑤ → 300×40=⑥

①+②=⑦ → ⑦+③=⑧ → ⑧+④=⑨ → ⑨+⑤=⑩ → ⑩+⑥=⑪

 

それぞれの計算は難しいものではありませんが、後半の計算をしているうちにそれまでの計算結果を忘れてしまいます。

これが桁の大きい暗算が難しい理由です。

 

それでは、次のような順序で暗算してみてください。

4×1=❶ → 4×40=❷ → ❶+❷=❸

50×1=❹ → ❸+❹=❺

50×40=❻ → ❺+❻=❼

300×1=❽ → ❼+❽=➒

300×40=❿ → ➒+❿=⓫

 

すべて暗算しきるのは難しいかもしれませんが、先ほどよりも計算を楽に進められたという方は多いのではないでしょうか。

それは、同時に意識に留めておく数字が少なくなったためです。

 

先ほどの計算手順では足し算の計算を始めるときにそれまでの掛け算の結果をすべて覚えておく必要がありました。

今回の計算手順では計算が進んだらそれまでの計算結果は忘れてしまって構いません。

そのため、同時に意識することが少なく楽に計算できるのです。

 

これは人間の基本的な能力の特性です。

ここからは、同時に意識出来る容量のことをスマホやパソコンに例えて「メモリ」と呼びます。

算数だけでなく他の教科でも同じですから、暗算の例と同じように「メモリ」を節約することが重要です。

 

たとえば・・・

現代文では、頻出である近代と現代、日本と海外などの対比、デカルト、カント、ソシュールなどの思想家を知っておけばそれを理解するメモリを節約できます。

英語では、長文を読む際に単語や文法をひとつひとつ意識していると内容を理解するメモリが足りなくなります。

世界史では、地理や風土、宗教、経済、政治、人間心理など多くの要素が絡み合っており、一つの側面を理解するときにも他の側面を念頭に置く必要があります。

化学では、物質のもつ性質や傾向を把握していないと実験手順の意味が理解できません。

 

どの教科でも入試問題のような発展的・複合的な内容を理解するためには、基礎にメモリを割いている余裕はありません

先ほどの暗算、九九がやっとの人ができるでしょうか。50×40は、5×4がえーと、20だから・・・とやっていては到底メモリが足りません。

だからこそ、それぞれの教科の「基礎」は九九と同じくらい無意識に扱えるようにする必要があるのです。

よく言われる「基礎固め」とは、単なる復習ではなく、こうした無意識化の作業のことです。

 

■どれくらいやればいいのか

無意識化することは地道な反復練習でしかできません

音読、問題演習、テストを受ける、何も見ないでノートに書きだす・・・身に付けたいものに応じてやり方はいろいろあります。

どれだけやれば身につくのかは内容によりますし、人によります。

そのため、何回やればいいというものではなく、考えず無意識にできるようになるまでやることが重要です。

 

とはいえ、大学受験においては「多くの人はこれくらいだよ」という目安は存在します。

最後に一例として、英単語について目安を記載します。

 

英単語:一日100個 想定1~1.5時間 一語一訳(日本語訳の一つ目だけ覚える)

 

いかがでしょうか。多いと感じるかもしれません。

もしこのペースで行えば半年でターゲット1900、システム英単語等の2000語程度の主要単語が、どこから聞かれても8割ほど即答できるようになります。

 

特に、高3から受験勉強を始めた方の多くはこれくらいのペースでやっています。

実例では、早稲田大学社会科学部に1年弱で現役合格した方はなんと一日500個もやっていました。

 

早稲田の方は極端な例ですが、英単語のような土台となる暗記ものは短期間に一気に進めることが重要です。

主要な単語をどれだけ覚えているかが英語を学習する際の効率を左右するので、早期に身に付ける必要があるためです。

例えば、スタディサプリや英文法ポラリスで有名な関正夫先生は、5月に主要単語の学習を完了させることを推奨しています。

また、少しずつ進めていると周回数が稼げません。

上記の目安では半年で10周ほどできる計算ですが、10周しても2割ほどは無意識化できないと捉えると、一日100個は決して多すぎるものではないとわかるはずです。

 

■まとめ

今回は「量をこなす」ことをテーマに、量をこなすことの意味について扱いました。

最後のテーマは「期限に間に合わせる」です。

皆さんには期日があります。推薦や総合型であれ、一般選抜であれ、質と量をこなすための締切りがあるのです。

次回は大学受験勉強のおおよそのスケジュールと、間に合わせるための工夫をお伝えします。