受験は「学力を伸ばすゲーム」から「学力を”証明”するゲーム」へ ——学び続ける時代に、なぜ”証明できる学力”が求められるのか

ディアロメンバーの皆さん、こんにちは。

 

「昔より勉強しやすくなったはずなのに、少子化で昔より倍率が低いはずなのに、なぜか受験勉強が楽になった気がしない」

そう感じたことはありませんか?

 

高品質で低価格(あるいは無料)の映像授業や解説動画、わかりやすく種類も豊富な参考書、

いつでも何度でも質問に答えてくれる生成AI——学ぶためのツールはかつてないほど充実しています。

にもかかわらず、受験が楽になったという話は聞きません。むしろ、求められるものが増えているようにすら感じます。

 

最終回となる今回は、その「なぜ」に答えます。 結論を先に言えば、「学力」の定義そのものが変わりつつあるのです。

 


はじめに:学び続けることが「人生の前提」になった

いま、学びは「一度きりの勝負」ではなくなりました。

技術革新、産業構造の変化、地政学的リスク、そして生成AIの普及によって、必要とされる知識・技能は更新され続けます。

この環境では、受験勉強も「合格したら終わり」ではなく、学び続けられる人になるための入口として位置づけ直されます。

 

そして、学び続けることを支える環境も急速に整っています。

映像授業、参考書の充実化、ネット上の解法共有、そして生成AI——学習を効率化するツールはかつてないほど充実しています。

 

ただし、ここに一つの逆説があります。

学習が効率化し、知識を蓄えやすくなるほど、「知識の蓄積」だけでは差がつきにくくなるのです。

その結果、評価の軸は「どれだけ蓄えたか」から「その場で何ができるか」へと移っていきます。

これは労働の世界でも観測されてきた構図であり、大学受験でも同じ変化が起きています。

 


1. 学力は上がる——ただし「使い方」で成果が大きく分かれる

近年の研究は、生成AIが学習成果を押し上げ得ることを示しています。

 

たとえば、2022年11月〜2025年2月の研究51本を統合したメタ分析では、

ChatGPT活用が学習成績に大きな正の効果(効果量 g=0.867、一般に0.8以上は「大きな効果」とされる水準)を持つと報告されています。[^1]

 

一方で、同じ”AI活用”でも、設計次第で学びが壊れるケースが確認されています。高校数学で約1000人規模の実地実験を行った研究では、

  • 自由にChatGPT風に使える群は練習中の成績が上がる一方、AIなしの試験では成績が17%低下
  • 学びを守る設計を入れた群は、悪影響が大きく抑えられる

という結果が報告されています。[^2]

 

「学びを守る設計」とは何か

ここでいう「学びを守る設計」とは、AIを使いながらも、自分の頭で考える機会を確保する仕組みのことです。

具体的には、たとえば次のような工夫です。

  • いきなり解答を出させない(ヒント中心にする)
  • まず自分の解答・方針を提出させ、それを踏まえて助言させる
  • 解法の根拠説明や誤り探しを中心に使わせる(「答え」より「理由」)

同じAIでも、こうした設計があるかどうかで、学びの加速器にも、学びを麻痺させる道具にもなり得る——ここが重要な分岐点です。

では、学習ツールが充実し、多くの人が効率よく学べるようになると、受験の世界では何が起きるのでしょうか。

 


2. 技術が進むと、評価の軸も変わる

「効率が上がれば楽になる」は直感として自然ですが、現実はしばしば逆に動きます。

背景にあるのは、技術で個人のパフォーマンスが上がると、「当たり前」の水準も上がるという構造です。

 

労働の世界では、この現象が繰り返し観測されてきました。

英国の全国調査(Skills and Employment Survey)に基づく報告では、

“自分の仕事は非常にハードだ”に強く同意する人の割合が、1992年の約32%から2017年には46%へ増加しています。

技術が進んで生産性が上がっても、「余裕」ではなく「期待値の引き上げ」として現れたわけです。

 

学習の世界でも、構図は似ています。ただし、単に「競争が厳しくなる」というより、「何が評価されるか」自体が変わる点が重要です。

  • 映像授業、参考書、ネットの解法共有で、知識を蓄えやすくなる
  • 生成AIで”それっぽい成果物”が量産できる
  • すると評価側は、「蓄積量」ではなく「その場での運用力」を見る形式へ移行する

結果として、「何を学力と呼ぶか」自体が変わり始めているのです。

 


3. 大学受験はすでに「証明ゲーム」へ動いている:1990→2025の問題比較

「本当にそうなのか?」という点は、入試問題そのものを見ると分かりやすいです。ここでは、英語を例にします。

1990年:知識の「部品」を切り出して測る

1990年の大学入試センター試験(英語)では、冒頭で単語の強勢(アクセント)を問う設問が置かれています(「最も強いアクセントの位置が異なるものを選べ」)。

文法・語法の空所補充や語句整序も明確に並び、知識を一つひとつ切り出して測る構成です。こうした形式を、ここでは「部品テスト」と呼んでおきます。

 

2025年:文脈の中で判断させる

一方、2025年度の大学入学共通テスト「英語(リーディング)」は、たとえばパンフレットや図表を読み取り、目的に合う選択肢を選ぶ形式が前面に出ます。 さらに、教師コメントを踏まえて文章を改善する(推敲・編集)タイプの設問も含まれています。

文部科学省関連資料(大学入試センター提出資料)には、共通テストでは「発音、アクセント、語句整序などを単独で問う問題は作成しない」という方針が明記されています。[^3]

なぜこうなるのか

高品質な映像授業などの学習資源が普及すると、「部品テスト」は対策が最適化されやすく、上位層の得点が収れんしやすくなります。

そこで評価側は、文脈の中で知識を使えるか/複数情報を統合できるか/限られた時間で意思決定できるかへ比重を移していきます。

要するに、受験で問われる「学力」の定義自体が変わりつつあります。

 

かつては「どれだけ知識を蓄えたか」が学力でした。

いまは「蓄えた知識をその場で統合し、判断し、説明できるか」が学力として測られるようになっているのです。

 


4. 生成AIは「学力」の定義をさらに動かす

もう一段、事態を動かしているのが生成AIです。

文章も要約も解答も”それっぽく”出せるようになると、評価の世界では必ずこうなります。

  • 志望理由書やレポートなどの事前提出物だけでは、本人の能力か判断しづらい
  • だから、検証可能性(プロセス・再現・口頭説明・制限環境)が重視される

 

「成果物だけでは本人の力が分からない」という問題は、実は教育に限った話ではありません。

UNESCOは、ディープフェイクが「知ること」そのものを揺らし、検出(見破り)・真理・知識・不確実性を扱う教育が必要になると論じています。[^4]

「見た/読んだ」だけでは信じられない世界では、最終的に求められるのは、根拠と検証の作法です。

 

入試も同じで、今後はますます

  • 途中過程の説明
  • 制限時間下での思考
  • 口頭試問・面接での突っ込み耐性
  • 学習ログやポートフォリオの整合性

といった学力(これまでに学び培った力)と学習能力(これから学ぶ力)の「証明の設計」が重要になります。

 


5. 学力の定義が変わる——2つの圧力

ここで混同しやすい点を、きちんと分けておきます。「学力」の定義を動かしている圧力は、実は2種類あります。

圧力A:学習資源の普及で、「蓄積」では差がつきにくい

映像授業・参考書・ネットで”正しいやり方”が普及すると、一定以上の層は伸びやすくなり、点差がつきにくくなります

すると評価は、より識別力の高い形式(複合問題・情報統合・時間制約)へ移る。 これが、1990→2025の問題変化に表れています。

圧力B:生成AIで、「成果物」が本人の力を反映しにくい

AIが「書けてしまう/解けてしまう」ため、成果物だけでは本人の理解が判断しづらい。

そこで評価は、再現性・説明・プロセスへ移る。 学びを守る設計のないAI利用は、短期の点数を上げても長期の実力を落とし得ることまで分かってきました。[^2]

このAとBは別の流れですが、どちらも「学力=知識の蓄積量」という旧来の定義を揺さぶり、「その場で統合・判断・説明できる力」へと再定義を迫っている点で合流します。

 


6. では受験生は何をすればよいか:「証明の土台」をつくる

最後に実践へ落とします。学力の定義が変わるなら、必要なのは運や根性ではなく、新しい定義に対応できる学び方を設計しておくことです。

① 自力で再現できる状態をつくる

  • 時間を切った演習で、解き切る体力まで含めて鍛える
  • 解法を口頭で説明できるまで詰める
  • ミスの再現条件(なぜ間違えたか)を言語化する

② 伸び方を示す記録を残す

  • 誤答ノート(原因→修正→再発防止)
  • 下書き→推敲の履歴(特に国語・英語)
  • 学習ログ(何を、どれだけ、どう改善したか)

③ AIを使うなら、学びを守る設計を入れる

  • 「答え」ではなく「ヒント」「誤り探し」「反例」「理由」を要求する
  • 自分の解答を出してからAIに検証させる
  • 使ったら必ず”AIなし”で再現テストをする

こうした設計なしに短期的な点数だけを追うと、長期の地力が削られ得る——というのが研究の示唆です。[^2]

 


結論:新しい「学力」を身につけた人が、最後に強くなる

世界は「学び直し」が前提の社会へ向かっています。

世界経済フォーラムの整理でも、仕事で求められる主要スキルの39%が2030年までに変化するとされ、継続学習の重要性が強調されています。[^5]

 

だからこそ、受験の意味も、そこで問われる「学力」の意味も変わります。

学習資源が豊かになるほど、そしてAIが強くなるほど、「知識を蓄える」ことの価値は相対的に下がります。

「知ること」が誰にでも/すぐにできることに変わってしまうからです。

 

代わりに価値が上がるのは、蓄えた知識をその場で統合し、判断し、説明できる力——つまり新しい定義の「学力」です。

学び続けることが重要になった時代に、受験は「新しい学力」を証明する場へ変わっていきます。

その変化に振り回されるのではなく、新しい定義に対応できる学び方を先に設計した人が、最後に強くなります。

 


最後に

この連載は、今回をもって最終回となります。 これまでお読みいただいた皆さまに、心より感謝申し上げます。

 

ここ数回の連載を通じて繰り返しお伝えしてきたのは、「学力」の意味が変わりつつあるということでした。

特に2025年の生成AIの進歩はすさまじく、毎月のように大幅なアップデートが行われ、それまでの常識が通じなくなることが何度も繰り返されています。

 

だからといって、知識を蓄えることの価値がなくなったわけではありません。

ただ、蓄えた知識をその場で使い、統合し、説明できる力——それが問われる比重は、確実に増しています。

だからこそ、学び方そのものを設計することが大切だとお伝えしてきました。

 

連載は終わりますが、皆さんの学びは続きます。

そしてこの連載が、皆さんが「自分の学び方を設計する」きっかけの一つになっていれば、これ以上の喜びはありません。

学び続ける力は、一度身につければ一生の財産です。 その力を証明できる形で育てていってください。

ディアロでの学びはきっとその手助けになるはずです。

 

長らくのご愛読、ありがとうございました。

 

 


参考文献

[^1]: Chen, L. et al. (2025). The effect of ChatGPT on students’ learning performance, learning perception, and higher-order thinking: insights from a meta-analysis. Humanities and Social Sciences Communications, Nature.

[^2]: Bastani, H. et al. (2024). Generative AI Can Harm Learning. SSRN Working Paper.

[^3]: 文部科学省 (2021). 令和3年度大学入学共通テスト『英語』について(大学入試センター理事長提出資料).

[^4]: UNESCO (2024). Deepfakes and the crisis of knowing.

[^5]: World Economic Forum (2025). Future of Jobs Report 2025: The jobs of the future – and the skills you need to get them.