「推薦なら楽」はもう危険。 なぜ“推薦組”の退学が増えているのか? ――推薦・総合型でも『学力』が問われる新時代へ

『今は推薦で大学に行きやすい』って、本当なのでしょうか?

ニュースを見れば、大学入学者の半分以上は推薦や総合型選抜で進学すると言われています。
しかしその一方で、『指定校推薦で入学した学生の退学者が急増している』といった、穏やかでない記事も目にします。

『楽に入れる』のに『入学後に苦しむ』——この矛盾こそが、現在の大学入試が抱える最大の問題点です。
なぜこんな事態が起きているのか。それは、高校の『評定』がもはや学力の証明になっていないという現実にありました。

本記事では、様々なWEBメディアや文部科学省の公式発表を引用しながら、この問題の構造を体系的に解き明かし、2025年からの新しい“常識”を解説していきます。

※あくまでの評価制度や入試制度などの仕組みとその影響についての解説であり、指定校推薦で入学された方や受験を予定されている方、高校などへの批判の意図は一切ございません。

はじめに

「推薦入試なら学力試験なしで大学に入れる」——そんな常識が、今まさに崩れ去ろうとしています。

現在の保護者世代が大学受験をした2000年代初頭、大学入学者のうち推薦入試による入学者は全体の約35%、一般入試が65%以上を占める「一般入試中心」の時代でした。
しかし2024年度には、総合型選抜と学校推薦型選抜を合計した入学者数が31万3,069人となり、全選抜入学者61万3,453人の51.0%を超える逆転現象が起きています(出典:大学ジャーナルオンライン)。

 

さらに衝撃的なのは、神奈川大学が公表したデータです。指定校推薦入学者の退学者数が2020年度から2024年度のわずか4年間で145%に急増(出典:All About NEWS)。
かつては「選ばれし優等生」の証だった指定校推薦で入学した学生が、大学の授業についていけずに退学するケースが相次いでいるのです。
この危機的状況を受けて、各大学は推薦・総合型選抜でも学力試験を導入する「ハイブリッド型入試」へと舵を切り始めました。

指定校推薦の「優等生」たちに何が起きているのか

保護者世代にとって、「指定校推薦で入学した学生が退学する」という事実は、にわかに信じがたいかもしれません。
2000年代初頭、指定校推薦といえば各高校で1~3枠程度しかなく、学年でもトップクラスの成績優秀者だけが獲得できる「狭き門」でした。
当時のAO入試(現在の総合型選抜)はわずか全入学者の1.4%に過ぎず、一般入試での競争が大学受験の主戦場だったのです。

 

しかし、現在の状況は大きく異なります。

文部科学省の「令和6年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況」によると、2024年度の大学入学者61万3,453人のうち、学校推薦型選抜による入学者は21万4,549人と全体の35%を占めています。
内部進学も含まれていますが、この数字は総合型選抜の9万8,520人(16%)の2倍以上です。
ここ数年の数字を見ても、学校型推薦の増加数のほうが多くなっています。「総合型選抜の拡大」が謳われる昨今ですが、実は「推薦枠の拡大」のほうが大きいのです。

表1. 日本の大学における入試区分別入学者数の推移(概算)

年度 入学者総数 一般選抜 (人数 / 割合) 学校推薦型選抜 (人数 / 割合) 総合型選抜 (人数 / 割合)
2021 608,983 301,848 (49.6%) 200,600 (32.9%) 88,881 (14.6%)
2022 612,277 296,252 (48.4%) 207,963 (34.0%) 92,236 (15.1%)
2023 615,162 291,556 (47.4%) 211,941 (34.5%) 95,979 (15.6%)
2024 613,453 283,277 (46.2%) 214,549 (35.0%) 98,520 (16.1%)

出典:文部科学省の公表データを基に作成。割合の合計は100%にならない場合がある。

総合すると、保護者世代の時代と比べて、推薦・総合型での入学者の割合は約1.5倍に増加していることになります。

 

問題は、この量的拡大に伴って起きている質の変化です。
神奈川大学の入試事務部次長、西川朋実氏は「指定校推薦での入学者の退学者が増えており、危機感を持っていました。
近年では指定校推薦だけでなく、AO入試で入学した学生の退学者数も増えていました」と明かしています。
指定校推薦で入学した学生の退学者は、2024年度とコロナ禍だった2020年度を比較すると145%と急増。
一方、一般選抜で入学した退学者は110%の増加にとどまっています(出典:All About NEWS)。

 

東洋大学も「指定校推薦は減らす方針」と入試説明会でコメントしており、
さらに取材に対して「指定校の中には、高校側の進路実績などのために、学部学科のミスマッチを承知で入学させ、
その後の成績等が芳しくない入学生が一定数存在するため、そのような高校とは信頼関係を築くのが難しい」と答えています(出典:All About NEWS)。

 

評定平均値5.0でも「学力不明」の時代——都の調査が示す「評定インフレ」の実態

保護者世代が中学生だった頃と今では、成績である「評定」の持つ意味が全く異なります。
その背景には、2002年度を境に行われた評価方法の大きな転換があります。

2001年度までの「相対評価」では、5段階の評定は集団の中での位置によって厳格に割合が決められていました。

  • 評定「5」:上位7%
  • 評定「4」:次の24%
  • 評定「3」:その次の38%
  • 評定「2」:その次の24%
  • 評定「1」:下位7%

しかし、2002年度以降の「絶対評価」では、定められた学習目標をクリアできているかで判断されるため、この人数の縛りがなくなりました。
その結果として、中学校のデータではありますが、評定「5」の割合は約14%と、相対評価時代の2倍に増加したのです(出典:AERA with Kids)。

高校の成績は少しわかりにくいのですが、「学習成績概評A(評定平均4.3~5.0)」の生徒が30.3%というデータから、
同様のことが起きていることが推測できます(出典:大学入試研究ジャーナル「高等学校の調査書における学習成績概評の都道府県別の分布調査」)。

これが、いわゆる「評定インフレ」の正体です。

 

さらに2020年から導入された新学習指導要領では、その傾向が加速しました。
従来のテストの点数に加え「主体的に学習に取り組む態度」という観点が評価に加わり、評価のあり方が根本的に変質したのです。

「主体的に学習に取り組む態度」のような抽象的な要素を評価するのは難しいため、「課題を期限までに提出したか」「宿題をきちんとやったか」といった具体的な行動が点数化される傾向にあります。
その結果、真面目に課題を出していれば評定平均値4.0を取れる高校が増え、評定平均値がインフレ化してしまいました(出典:All About)。

 

生成AIが変える入試——「事前提出型」の終焉

2022年末のChatGPT登場以降、大学入試にもう一つの大きな変化が起きています。
志望理由書や課題レポートといった「事前提出型」の評価方法が、信頼性を失いつつあるのです。

生成AIを使えば、論理的で説得力のある文章を誰でも簡単に作成できる時代。
大学側は、提出された書類が本当に受験生本人の実力を反映しているのか、判断が困難になってきました
この状況を受けて、「その場で書かせる」試験へと回帰し始めています。

 

早稲田大学国際教養学部では、2026年度入試から重要な変更を実施します。
これまで出願書類として事前に提出していた志望理由書を廃止し、筆記審査当日に「志望理由に関するエッセイ(日本語)」を30分で書かせる方式に変更されます(出典:早稲田大学国際教養学部)。

現在の早稲田大学国際教養学部AO入試では、書類審査と筆記審査(Critical Writing)により選抜が行われ、筆記審査は120分間で英語の課題文に関する選択問題と英語による論述問題2問に解答する形式となっています。

「ハイブリッド型入試」——年内でも学力重視へ

こうした状況を打開するため、各大学が導入し始めたのが「ハイブリッド型入試」です。
推薦・総合型選抜の枠組みを維持しながら、学力試験を組み込むこの新方式は、2025年6月の文部科学省の大学入試要項改定により、さらに加速することが予想されます。

 

東洋大学の「学校推薦入試 基礎学力テスト型」は、
2025年度入試で募集人員578名に対して、志願者19,610名、合格者4,194名で、実質倍率は4.68倍という高倍率を記録しました(出典:大学ジャーナルオンライン)。
試験科目は英語・国語、または英語・数学の2教科で、英語は英語外部試験のスコアも利用可能です(出典:東洋大学入試情報サイト)。

東洋大学は2026年度入試から、学校推薦型選抜から総合型選抜への変更を発表。
推薦書が必要なくなり、全国に試験会場を設定することで、より多くの受験生にチャンスを広げています(出典:大学ジャーナルオンライン)。

神奈川大学が新設した「年内学力入試」も、英語と国語または数学の2教科で200点満点、調査書はわずか50点という配点になっています(出典:All About NEWS)。

大東文化大学や東京福祉大学も、2025年度入試から東洋大学と同じような2科の基礎学力のみで合否を判定する、併願可能な「年内入試」を実施しています(出典:ダイヤモンド教育ラボ)。

これらの他にも、武蔵大学、昭和女子大学など、有名大学が続々と学力試験を推薦・総合型選抜に導入し始めています。

 

データが語る「中退リスク」の実態

文部科学省の「令和5年度 学生の中途退学者・休学者数の調査結果について」によると、2023年度の大学・短期大学の中退者数は5万6,710人、中退率は2.10%に上ります(出典:大学中退就職ガイド)。

 

注目すべきは、私立大学の中退率(2.88%)が国立大学(1.20%)の2倍以上という事実。
多様な入試方式で学生を受け入れる私立大学ほど、ミスマッチのリスクが高いことを示しています(出典:大学中退就職ガイド)。

 

中退理由の内訳を見ると、「転学・進路変更等」が22.0%でトップ、次いで「学生生活不適応・修学意欲低下」が16.5%、「就職・起業等」が14.4%、「経済的困窮」が13.6%となっています(出典:ハタラクティブ)。

特に深刻なのは、理工学部の中退率が3.5%と全学部で最も高いこと。
中退理由として「授業についていけなかった」と回答した学生の割合が、理系は文系より27.9ポイントも高いという結果が出ています(出典:大学中退就職ガイド)。

休学者数の動向も注目に値します。2023年度の大学・短期大学の休学者数は7万2,325人、休学率は2.68%に達し、コロナ禍以前の2019年度の2.15%を大きく上回っています(出典:大学中退就職ガイド)。

 

OECD諸国の平均大学中退率は32%です。

欧米の大学は、入学するのは簡単ですが、単位取得基準が非常に厳しく卒業するのが難しい傾向にあるので、大学中退率は高い傾向にあります。

(出典:大学中退就職ガイド)。

推薦・総合型選抜の拡大は、こうした欧米式に近づくことであったのかもしれません。

 

これからの受験生が知るべき「新常識」——これまでの「常識」はもう通用しない

保護者世代が受験した2000年代初頭、「推薦なら学力試験なし」「評定が高ければ安心」という常識がありました。その流れが近年まで維持されてきたことは間違いありません。
しかし、もはやその時代は終わりました。2026年度入試からは、さらに多くの大学が年内入試でも学力評価を導入することが予想されます。
これからの受験生と保護者が押さえるべき「新常識」は以下の通りです。

 

1. 評定平均値だけでは不十分
2002年以前の相対評価時代、評定「5」は上位7%の証でした。
しかし現在は約14%が取得可能で、高い評定平均値は「勤勉さの証明」にはなっても、大学での学習に必要な学力の保証にはなりません。
定期テスト対策だけでなく、模試や外部検定試験で実力を客観的に測ることが重要です。

2. 指定校推薦でも英語資格が求められる場合がある
保護者世代には「指定校推薦なら評定だけ」という印象があるかもしれませんが、現在は違います。
一部の大学では、指定校推薦でも英検を条件とするケースがあります。

3. 「その場で書く力」を鍛える——生成AI時代の新たな要求
「生成AI」の登場により、事前提出の書類は信頼性を失いつつあります。
試験会場で論理的な文章を書く力が問われます。日頃から新聞の社説を要約したり、時事問題について自分の意見を800字程度でまとめる練習を積み重ねましょう。

4. 基礎学力の穴を作らない——推薦でも一般入試レベルの勉強が必要に
かつては「推薦狙いなら一般入試の勉強は不要」という考えもありましたが、その姿勢はもはや通用しなくなってきています。
大学側の動きからは「推薦・総合型を拡大した結果、大学での学びにやはり基礎学力は必要だとわかった」との受け止めが伺えます。
今後もこうした「揺り戻し」が続くと予想できます。
また、大学にふさわしい学力が身についていない状態で入学すれば、待っているのは「留年」「休学」「退学」のリスクです。

5. ミスマッチを防ぐ情報収集——中退率は保護者世代より上昇
九州産業大学の「WEEKDAY CAMPUS VISIT®」のような、実際の大学の授業を体験できるプログラムを積極的に活用しましょう。
この取り組みを含む多角的な施策により、同大学では約5%だった中退率が2.85%まで減少したという報告もあります。

 

まとめ——学力なくして大学生活なし

日本の大学入試は今、大きな転換点を迎えています。
2000年代初頭、18歳人口は約150万人で、大学入学は「選ばれし者」の証でした。
現在は18歳人口が約110万人まで減少し、大学全入時代と言われて久しいですが、「入れる大学」と「卒業できる大学」は別物です。

 

かつて一般入試が65%以上を占めていた時代から、現在は推薦・総合型選抜が51%を超える時代へ。
この量的変化に加えて、2002年の相対評価から絶対評価への移行、2020年の新学習指導要領導入、そして生成AIの登場という質的変化が重なり、従来の推薦・総合型選抜のあり方に根本的な見直しを迫っています。

神奈川大学の公表した「指定校推薦入学者の退学率上昇」という衝撃的な事実は、入試制度の構造的な問題を浮き彫りにしました。
「指定校推薦=優秀で真面目な生徒」という強いイメージがあるかもしれませんが、現在はその前提が崩れつつあるのです。

 

その答えが、学力評価を組み込んだ「ハイブリッド型入試」です。
東洋大学の「基礎学力テスト型」は、第一志望比率が約3割と一般選抜より高く、入学者は募集人員よりもかなり多くなったという結果が出ています(出典:大学ジャーナルオンライン)。

受験生にとって、これは負担増に見えるかもしれません。
しかし、長い目で見れば、適切な学力評価による選抜は、入学後のミスマッチを防ぎ、充実した大学生活を送るための重要な第一歩となります。

 

「推薦なら楽に入れる」「評定が高ければ大丈夫」という常識は、もはや通用しません。
どんな入試方式を選ぼうとも、大学での学びに基礎学力は不可欠。
この現実を受け止め、しっかりとした準備を進めることが、これからの大学受験の成功、そして入学後の充実した学生生活への鍵となるのです。